高倉健晩年の作品

2014.12.10
丹波春秋

 テレビで高倉健を追悼する後期の作品を何本か観た。竹田城ブームを引き起こした遺作の「あなたへ」は、先立った妻(田中裕子)の故郷の海へ散骨に行き、「自分は彼女のことがわかっていたのか」と自問する主人公の想いが切ない。▼元特攻隊員だった漁師役の「ホタル」では、やはり薄命の妻を田中が演じる。妻の名をとった「とも丸」が建造25年後、妻の死からは10年後に廃船となり、浜辺で燃やして別れを惜しむラストシーンは、高倉の黙って見つめる顔だけで、どんなセリフをもしのいで胸に迫ってくる。▼「あなたへ」の撮影の合間に撮られたドキュメンタリーで、彼は「役にかなった暮らし方をしていなければ、人の心には訴えられないのでは」と話していた。▼端正な顔で売り出したニューフェースの頃は、全くの大根だったそうだ。大スターにのしあがらせた任侠シリーズが、やがて行き詰まってきた頃に転機となった「八甲田山」。完成するまでの3年間、無収入の高倉は、持ち家も愛車も売り払うほどに打ち込んだという。▼以後の、人生の哀しみをじっと胸奥に秘めた役柄。そして哀しみを背負って生きているのは、主人公ばかりでなく世の中のそこここにいる。そんなことを知らせることで、晩年の作品群がほのかに光を放ち、共感を呼び寄せるのだろう。(E)

 

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