柏原出身の川端謹次画伯の展覧会が植野記念美術館で開かれている。没後20年。筆者が神戸のお宅を訪ねたのは、その1年前の1997年だった。「絵を描くことだけが楽しみ」の人だということがよくわかった。
3男の皓孔さんによると、家族と一緒に食事していた温泉宿の団欒の席で椀の蓋の裏をじっと見つめていて、「水滴が綺麗だ」と言ってスケッチを始めたという。
海や港の絵で、遠くに浮かぶ船がスススっと簡単に描いてあるようですごくリアル感を持つ。街角や木立に垣間見られる人物もごく軽妙なタッチで、顔は分からなくても表情がよく伝わってくる。
川端さんと言えば風景画を思い浮かべるが、今回の展示では9点の草花のスケッチが出ている。実に精密で、「花びら8枚重なる」とか「つぼみが2つに割れ7~8つに分かれためしべ」などと書いた拡大図まで。このような細かい観察眼のベースの上にあの風景画が成立しているのだろう。
「描いた絵はどの1枚とっても孫のよう」と、手放すことを嫌った川端さん。あれだけの技量だから、画商がかんでいれば全国にもっと名前が知れ渡ったと思うが、手放さなかったからこそ、こうして沢山の絵が地元の美術館に寄贈され、まとめて鑑賞できることになったとも言える。もっと多くの市民に観てほしい。(E)