東北勢悲願の優勝旗の夢はまたも潰え去った。1人で投げ抜いてきた金足農高、吉田の右腕も大阪桐蔭の猛打の前に、遂に力尽きた。
最終打者の打球が外野のグラブに吸い込まれた瞬間、チャンスでもピンチでも笑顔を絶やさなかった吉田の顔に初めて大粒の涙が浮かんだ。2度目の春夏連覇、史上初の偉業に胸を張る桐蔭ナインを横目に、その涙は完投できなかった悔しさ故だったろう。
桐蔭は文句なく最強チームだったが、大観衆への吸引力で金足農は勝るとも劣らなかった。東北に在住したことのある筆者には、毎日楽しませてもらった第百回の夏の甲子園だった。
金足農快進撃の原動力は、ナイン一丸となってのプレーだった。特に、対近江高戦でのサヨナラ2ランスクイズ。3塁走者が「お前まで!?」と驚くほど意表をついて2塁走者が生還した。監督経験を持つ筆者友人は、「投手が内角高めに投げた瞬間に、彼は『スクイズが3塁に転がるので野手は自分の動きが目に入らない』と咄嗟に判断し、一目散に走り抜いたのだろう」と解説する。
「霜白く土こそ凍れ 見よ草の芽に日のめぐみ 農はこれたぐひなき愛 日輪のたぐひなき愛… この道にわれら拓かむ」と同校校歌。普段、豚の世話もするらしい彼らが球史に残る名場面を演出したとは、痛快である。(E)