童謡「春よ来い」を作詞した随筆家の相馬御風が、「子どもは思いがけない面白いことを言うものです」と前置きして我が子の話を紹介している。
母に連れられて東京に出かけた9歳の男の子が家に帰ってきて、卸風に「お父さん、東京の空には星がありませんね」と話したというのだ。
田舎暮らしの相馬一家。子どもは満天の星を見慣れていた。「田園で育てられている子どもたちにとりて夜天の星がいかに懐かしく愛すべきものであるかが察しられます」と書いている。
個人的な話だが、似た体験をしたことがある。息子が小学生の頃、東京に連れて行き、東京タワーの展望台にのぼった。眼下に果てしなく広がるビル群に感嘆している息子に「こんな所に住みたいか」と尋ねた。すると「田舎がいい。田舎には山がある」との答えが返ってきた。
人類の歴史を500万年と仮定すると、499万年は狩猟採集の生活であり、人間という存在は自然に適応して形成されたと、河合雅雄氏は言われる。ならば、山があり、無数の星がきらめく環境は、人間存在そのものにとって「懐かしく愛すべきもの」でないか。
東京圏で、転入者が転出者を上回る「転入超過」を22年連続で記録したと過日の報道にあった。止まらぬ東京一極集中。人間の根源に背反していないか。(Y)