感動の涙

2018.02.17
丹波春秋

 名優で知られた小沢昭一氏は舞台に上がる前、ひどくあがったらしい。どれほど場数を踏んでも変わらなかった。

人前に立つことに慣れているはずなのだが、舞台に立つたびにあがった。しかし小沢氏は、あがることをいとわず、むしろ好んだ。一目置く役者たちはすべてあがることを知っていたからだ。

 「慣れ切ったアガラない仕事というものは、新鮮味なし、意外性なし、愛敬もなしで、魅力にとぼしいのですよ」と小沢氏。逆に言えば、あがるからこそ名演技ができる。

 舞台というのは、通常の世界でない。通常ではない世界に身を置くのだから、心理状態も通常でいられるはずがない。神経が鋭敏になり、気持ちがたかぶる。その役者たちの緊張感が懸命でひたむきな演技となって舞台で発露されたとき、見ている側の心を打つ。

 ささやま市民ミュージカルを見に行った。子どもを中心にした市民57人が舞台の上で演技をし、踊り、歌った。幕が上がる前はさぞや緊張をし、あがったことだろう。しかし、だからこそ一生懸命の演技がすがすがしく、みずみずしかった。

 終演後、涙を流しているキャストの姿を見かけた。それは感動の涙だったろう。通常ではない心理状態の中で自分の力を精いっぱいに出し切った者だけが流せる涙だったに違いない。(Y)

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