野菜工場

2019.03.14
記者ノート

 「武士の情けで、やめとくれ」―。10年以上前だったか、篠山市大山地区特産のスイカが長雨の影響で不作となった。ある農家に話を聞き、畑の写真を撮らせてもらえないかとお願いした時のことだ。自然相手の難しさ、プライド、悔しさ…いろんな思いが詰まった言葉だった。

 農業は戦いの連続だ。天候、害虫、鹿や猪…。機械化が進んでいるとはいえ、その作業も決して楽なものではない。農家の努力と工夫があってこそ、おいしい野菜がいただける。

 篠山市内でこのほど、外食産業向けの野菜工場が稼働を始めた。人工光、二酸化炭素、肥料などの量と組み合わせによって、味、色、葉の固さや水分量、大きさ、栄養価まで自在に“設計”するという。もちろん屋内なので、天候、害虫、獣害の心配はない。

 良し悪しではなく、そういう時代がすでに来ていたのだ。ただ、畑や田んぼを毎日眺め、土の付いた篠山ABCマラソンのスタッフジャンパーを着込んで作業する農家を見ながら暮らす者として、何だかとても複雑な気持ちになるのだ。(芦田安生)

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