日本が初めて参加したオリンピックは、1912年のストックホルム大会だった。国内予選の結果、短距離で代表選手に選ばれた東京帝国大学の三島弥彦は、東大総長にこんな相談をしたらしい。「たかがかけっこのために外国まで出かけるのは、東大生としてどれほどの価値があるでしょうか」。▼ストックホルム大会は5回目のオリンピック。日本にはまだオリンピックの意義が伝わっていなかったのだろう。国民の多くが熱い視線を注ぐ今とは、隔世の感がある。▼トリノ冬季五輪がいよいよ開幕する。日本時間では11日に開会式が行われるが、1889年のこの日、日本で初めて「万歳」の叫びがあがった。場所は東大。憲法発布の式典の席上だった。当時の東大総長が、学生と一緒に奉祝の声をあげたいと考え、バンザーイとやったのが始まりという。▼万歳三唱の風景は選挙の当選や入試合格、運動会の表彰式などで見られるが、血塗られた歴史も持っている。出征兵士を送るときに万歳が叫ばれた。万歳の声を受け、戦地に趣いた。国のためだった。▼オリンピックにも国の争いが影を落とした歴史がある。しかし、スポーツを通して世界に平和をもたらすことを願ったのがオリンピックのそもそもの始まりだ。世界平和を願いつつ、日本選手の活躍をさわやかな万歳で喜びたい。(Y)