「三男」という子がいた。物覚えが悪いのか、自分の名前の中にある「三」という漢字が覚えられない。先生がていねいに教えても、翌日になると忘れている。ところが、この三男君は、雲とか雪という字はよく覚える。2学期の終わりに習った「箒」という漢字を、冬休みが明けても覚えていた。▼「大人が易しいと思っている文字が決して易しくなく、逆に難しいと思う字が易しく覚えられる事のある事を三男君に教えられた」というこの先生は、幼児期から漢字教育が必要だと説いた教育学博士の石井勲氏だ。▼石井氏によると、「鳩」「鳥」「九」の3つの字のうち、子どもが最初に読めるようになるのは「鳩」で、次が「鳥」、もっとも画数の少ない「九」が最後になるという。画数に関係なく、具体的なものほど理解しやすい。▼石井氏を天才と仰ぐ藤原正彦・お茶の水女子大学教授にも同様の経験がある。長男が4歳のとき、「林檎」「麒麟」「葡萄」「豆腐」という字はすぐに読むようになったが、「右」「左」「上」「下」は読めなかったという。▼小学校1年で書き取りができなかった漢字のワースト1は、「一つ」という調査結果が先ごろ公表された。この結果にさほど驚くことはない。画数の多い字は難しく、少ない字は易しいと決めてかかっている大人の常識こそ問うべきなのだ。(Y)