心乱れる桜の季節もそろそろ終わる。今年は平年より10日も早く開花し、日本中が大騒ぎしたが、桜というのはいつも日本人の心を捉えて放さないものだとつくづく思う。 最近取材した篠山市の歌人、醍醐志万子さんの話が印象に残っている。醍醐さんは今、永井荷風の長編日記、「断腸亭日乗」を読んでいるそうなのだが、「『昭和が進むにつれて街が汚くなっていく』とか、『日本がもし戦争に勝っていたら、もっと大変なことになっていた』などと書いており、時代をちゃんと見極めているのはさすが」と評する。 また「昭和10年代の政治批判が、現代にも通じるので驚く。『こざっぱり、こぎれいという人がなくなってきた』と書かれているのも、明治生まれの母はこぎれいにしていたことを思い出す」とも。真実や美しいものは案外、いつの時代にあっても同じなのではないだろうか。 読書家の醍醐さんは「読書は人間性を作る基礎」と言い、まずは“読むべき本”を読むことをすすめてくれた。「24時間、一生読んでいても世界中の本は読みきれないのだから」と言われてみれば確かにそうかもしれない。 定評があり、長く受け継がれてきたもの、不易流行のもの。本に限らずそうした「本物」を知り、感性を磨いていきたい。(徳舛 純)