レンタル店で「東京オリンピック」のDVDを見つけ、40数年ぶりに観た。ハードルの依田郁子がスタート前の緊張をほぐすため、口笛を吹いて歩き回ったりトンボ返りをする。50キロ競歩でゴールインした選手が、優勝をうれしがるより、いまいましそうにテープをぶっ切る。…いくつもの場面が記憶に蘇った。▼五輪委員会から制作依頼された公式記録映画なのに、市川崑監督は競技そのものより、徹底して人間を写し出す。試写会でお偉方からごうごうの非難を浴び、やむなく競技も入れたそうだが、それでも非常に少ない。▼しかしながら、女子バレー、ソ連との決勝戦のいよいよマッチポイントという所で、控えの選手がモップを持ち出して、汗で濡れた床をばたばたと拭いて回る場面など、競技には全く関係ないにもかかわらず、緊迫感が非常な迫力で伝わってくる。▼筆者は五輪本番は観られなかったが、半年後、大学4年の春にこの映画を観た。日記に「3時間立ちっ放しでくたびれた」とあるが、感想をノート3ページ分、ぎっしり書き込んでいる。「ゲームは観衆なくして成立し得ない。一体となって画面に見入っていた館内は、スタジアムの観衆の縮図だった」。▼北京五輪も、メダルの数より「人間と人間が、持てる力を最大限に発揮してぶつかり合う場」に注目したい。(E)