水木さんの死に際し、以前、「水木しげるが篠山におったんやで」という話を思い出し、資料を集めた。篠山についての記述は決して多いとは言えなかったが、この野山を水木少年が駆け、不思議な体験をしていたことは間違いなく、想像するだけでわくわくする。
資料を読むと、彼が幼いころから死や不思議の世界に引かれていたことがわかる。勉強はからきしだったようだが、その想像力と好奇心は人並み外れて豊か。それが漫画家としての大成につながった。人生はわからないものだと思う。
著書「私はゲゲゲ」の最終第4部の一部に、「百歳まで生きねばならんね」とあるが、きっと、「しゃーないね」で済ましていそうな水木先生。鬼籍の世界をも楽しんでおられそうだ。
幼いころから大好きだった鬼太郎の作者が亡くなられたのに、不思議と悲しみが薄い。「父のそばにいると、不思議と幸せな気持ちになれる」と、同著巻末に娘の悦子さんが書かれている。取材を通して、私も「幸福菌」(命名は荒俣宏さん)に感染したのだろうか。(森田靖久)