「マジックアワー」

2008.07.03
丹波春秋

 「マジックアワー」という時間があることを、同名の封切映画(三谷幸喜監督)で知った。陽が沈んでもまだ完全に暗くはならない頃、不思議な放射状の光に包まれた瞬間のことを言うそうだ。▼この映画に、端役だが品の良い老人が登場し、誰かと思ったら柳澤慎一。往年の2枚目半、またジャズシンガーとしても鳴らした人だった。映画での役柄は、昔1本だけヒットさせた後、忽然と姿を消した元アクション・スター、高瀬允。少年時代、彼に憧れて役者の道に入った下積みの村田大樹(主役。佐藤浩市)が、地方の港町で偶然見つける。▼今はマイナーなPR映画で働く高瀬が「マジックアワーを今日見られなかったら、また明日見ればいい。私は今も追いかけているよ」と村田に言う台詞は、そのまま柳澤の言葉のようにも聞こえた。▼先日、青垣町の知人宅を訪れた際、夕闇の立ち込める直前、付近の田んぼが昼間より、もっと鮮やかに感じられた。ずっと曇っていたので「マジック」ではなかったはずだが、気分によっていつもの光景が違って見えたのだろう。▼写真家の菅原一剛氏は「マジックアワーは私達の星が丸いことを教えてくれる」「でも、その時間に限らず、すべての時間の中で、その時間ならではの美しい写真は撮れる」(「ほぼ日刊イトイ新聞」)と書いている。  (E)

関連記事