美食家で有名な北大路魯山人によると、ウナギが最もおいしい時期は夏場ではなく、1月の寒いころだという。しかし、さすがの魯山人も、おいしいとわかっていても、寒中は、ウナギに食指が動かなかったようだ。▼うだるような盛夏にあると、ウナギを食べたいと思う。それは、「土用の丑の日」などの長年の習慣もあるだろうが、それ以上に人間の生理的な要求であり、「暑さに圧迫された肉体が渇している」からだと魯山人は言う。▼大伴家持も「夏痩せに良しといふ物ぞむなぎとりめせ」と歌い、知人に対して「夏痩せにはウナギがいいというから、取って食べてみたら」と勧めている。万葉の時代から、夏バテ対策としてウナギの効用が認められていたことがわかる。夏場、ウナギが食べたいと思うのは自然の理と言えそうだ。▼しかし、体が欲しても国産のウナギは値が張る。奮発して国産ウナギを買おうと思っても、本当に国産なのかと疑ってしまうご時世だ。そんなこんなで、我が家の食卓にウナギはなかなか登場しなくなった。▼魯山人は「うなぎを食うなら、毎日食っては飽きるので、三日に一ぺんぐらい食うのがよい」と、ぜい沢なことを書いている。昔は、体が欲するまま国産ウナギが食べられたのだろうか。現代の庶民には夢のような話だ。 (Y)