精神科の世界では、この20年間に新しい病名がずいぶん増えたらしい。急性ストレス障害、適応障害、パニック障害などだ。「心のケア」という言葉も頻繁に使われるようになった。それほど現代は、心に痛手を負う人が増えたのだろうか。昔はそうした人が少なかったのか。▼「大胆な仮説」と断りながら、精神科医の中嶋聡さんが「昔なら黙って耐えていたのが、人の耐性が弱くなったため、いろんな病名が必要になったのでは」と問題提起している(『心の傷は言ったもん勝ち』)。ストレスに耐え、乗り越えることを当然とする文化が崩れ、ふんばることができなくなった側面もあるのではないか、という。▼この指摘は見当はずれではなかろう。辛くても、ふんばることを高貴とする考え方は薄れたようだ。福田首相の突然の辞任表明はその一例にあげられる。▼辞任表明に対して、丹波地域の人たちからも「無責任だ」「政治不信が深まった」という憤りの声があがった。首相もそうした反応が起きることは百も承知だったはず。なのに、なぜ辞任なのか。▼「人主は二目をもって一国を視、一国は万目をもって人主を視る」という言葉があるように、上に立つ者には厳しい態度が要求される。人々の耐性が弱くなった現代の風潮をくつがえすような、強さがほしかった。(Y)