「光秀に勝った男」描く ”赤鬼”赤井直正を小説に 「ロマン感じて」

2022.03.19
地域明智光秀と丹波地域歴史

赤井(荻野)直正を主人公とした小説を出版した平井さん=2022年3月4日午前10時30分、兵庫県丹波市柏原町柏原で

戦国時代、丹波国平定戦「丹波攻め」で明智光秀軍を迎え撃った、兵庫県丹波市の黒井城主・赤井(荻野)悪右衛門直正を主人公にした小説「丹波の赤鬼『悪右衛門駆ける!』―信長に敢然と立ち向かった丹波武士」を、同県尼崎市の歴史愛好家・平井直さん(68)が自費出版した。ペンネームは摂津守。直正の生い立ちから数々の戦い、生涯のハイライトとなる丹波攻めまで、史実を中心とした内容で物語を展開し、自身が直正に持つイメージを盛り込みながら小説として楽しめるように仕上げた。「自分なりの生き方を貫いた人。現代では薄れている『義』『人情』などを感じてもらえれば」と話している。

天正年間、織田信長の命を受けた光秀が、丹波攻めを繰り広げた。同3年、丹波国に覇を唱えていた直正との戦いでは、直正が光秀軍を挟み撃ちにする戦法「赤井の呼び込み戦法」を展開し、光秀は敗走。この作戦は、同県丹波篠山市の八上城主・波多野秀治が赤井方に寝返ったことに起因するともいわれ、直正と秀治との間にかねてからの密約があった可能性もあるという。光秀は同6年、再び黒井城を攻め、直正を病で失っていた赤井方は敗れ、黒井城は落城した。

物語は「才丸」と名乗った直正の幼少期から始まる。荻野氏の養子から黒井城主となって「悪右衛門」を名乗り、父・時家や兄・家清と連携して戦う若き日の姿を生き生きと描いた。クライマックスでは、「呼び込み戦法」にも触れている。

丹波地域の国人衆の動きに加え、足利将軍家や三好氏など京都の情勢、飛ぶ鳥を落とす勢いだった織田信長の動きなどを盛り込みつつ物語を展開した。史実をベースとしているが、架空の人物を配置し、直正の側室「お高」の父を商人「氷上屋惣五郎」の名で登場させるなど、歴史に詳しくなくても楽しめるよう仕上げた。

元銀行員。3年ほど前、丹波市出身の同僚から、丹波地域の戦国史について調査研究した本「丹波戦国史」を譲り受けたのが、直正に興味を持つきっかけになった。「それまでは、丹波に光秀を破った武将がいた程度の認識だった」と笑う。

出版していないが、武将・藤堂高虎を主人公にした小説を書いたことがあり、直正の生涯も小説で表現することに決めた。「銀行員の時、何度も稟議書を書いたので、文章を書くことは苦ではなかった」とほほ笑む。

丹波市に何度も足を運び、史跡を歩いたり、郷土史家に話を聞いたりして取材を重ねていたが、コロナ禍により思うような現地調査がかなわなくなった。もとより直正は負けた武将であることから、「資料が少なかった。史実から大きく離れたくなかったが、事実の証しが少ない。足跡があまりない分、物語の膨らませ方に難儀した」と振り返る。

直正が「丹波の赤鬼」の異名を持つことから、暴れん坊のイメージがあったという。「幕府への忠節を重んじた人。引いた目で見れば反体制派なのかもしれないが、赤井家、荻野家を残すことや、丹波を守るにはどうすれば良いかを考え、貫いたところにロマンを感じてもらえれば」と話している。

自身が取締役副会長を務める会社「アクトフロンティア」のホームページの「お問い合わせ」コーナーから注文できる。2200円(税込)。

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