「丹波のむかしばなし集」が兵庫丹波の森協会から発行された。今回で第9集目。これまでの「むかしばなし集」を繰ってみると、きつねやたぬきなどの動物が多く登場していることに気づく。なぜ昔話には動物なのか。▼哲学者の内山節さんに『日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか』という著書がある。それによると、真偽は定かでないが、きつねなどの動物にだまされたという話がかつては多く聞かれた。しかし、1965年以降、そうした話は途絶えてしまったという。▼その背景のひとつには、日本人の自然観の変化があろう。今でこそ私たちが頻繁に口にする「自然」という言葉は、明治時代になって入ってきた外来語の訳語であり、日本にはもともとなかった。自然は人の外にあって、人と対立するものでなく、人と自然は溶け合っていたことの証左だ。▼たとえば宮沢賢治は、道を歩いていて「木の霊が話しているやーい」「おれの思想があの木に移ってるもなあ」などと語っていたらしい。賢治は、自然と交感し、自分の中に自然を感じる感性があった。賢治ほど先鋭的でなくても、自然と人が同化していた昔は、多くの人がこうした感性を持っていたのだろう。▼先人が語り継いできた昔話に動物が多く登場するのは、このためではないか。 (Y)