当たり前にありすぎるけれど、住民が大切にしていきたいもの「世間遺産」―。丹波新聞では、兵庫県丹波地域の人や物、景色など、住民が思う”まちの世間遺産”を連載で紹介していきます。今回は丹波市丹波市山南町阿草地区の「木の中地蔵」です。
木の中地蔵は、集落を見下ろす丘の中腹に鎮座する熊野神社の裾に、元禄8年(1695)に建てられた地蔵堂に安置されている。正式には?羅佗山地蔵尊といい、ケヤキの巨木から彫り出した約1・8メートルの座像。彫りは素朴で、銘はないが行基の作と伝わる。昭和54年(1979)に開基825年法要を営んだ。難産、苦痛、難病に御利益があるとされている。
同集落の東林寺に保管されている版木によると、木の中地蔵は、1本のケヤキから3体の地蔵を彫り出したうちの1つとされ、木の下(元)は江州(滋賀県)の木下に、木の先は但州(但馬)の城崎で祭られていると記されているが、現存しているかどうかは不明という。
木の中地蔵は、毎年8月24日の地蔵盆に盛大に祭られている。これら祭事を仕切っているのが「供僧」と呼ばれる同集落の年長者6人(現在は7人)。熊野(大歳)神社の祭事も宮総代と共に行っているが、僧が神社の神主の役目を果たすのは全国的にも珍しく、明治時代、政府の神仏分離令に適合されず、神仏習合の風習がそのまま残ったとされる。供僧長の永井和昭さん(74)は、「社会の変化とともに供僧制度が危機にひんしている。何百年の歴史を持つ地蔵や神社。祭事を簡素化するなど、形を変えながらでも未来永劫、守っていかなければ」と話している。