桜の名所として知られる青垣の丹波少年自然の家で、80匹の鯉のぼりが風に泳いでいる。壮麗な桜と、大空にはためく鯉のぼり。春の里山を美しく彩る毎年恒例の光景も今年が最後になるらしい。鯉のぼりの破損や費用の節約が理由という。残念だが仕方ない。▼同施設で20年前から始まった鯉のぼりの大空遊泳は、子どもたちの健やかな成長を願ったものらしい。桜と子ども。この二つの言葉から、小林一茶を連想した。▼「我と来て遊べや親のない雀」の句が語っているように、一茶は幼くして母親を失った。その後、継母から冷たくされ、15歳の春に江戸に出て辛苦をなめた。そんな境遇で育った一茶は、50歳を過ぎて結婚。56歳のときに娘を授かった。▼1歳(数えで2歳)になる長女に一人前の正月の雑煮膳をすえて、「這へ笑へ二つになるぞけさからは」と祝った一茶。秋には「名月を取ってくれろと泣く子かな」とも詠んだ。しかし、長女は満2歳を待たずに亡くなった。「露の世は露の世ながらさりながら」。いとしい子どもを失った親の悲しみが切々と伝わる。▼そんな一茶に桜の句がある。「世の中は地獄の上の花見かな」。親による子ども虐待、少年少女にも及んでいる大麻汚染など、地獄の様相がかいま見られる今の世だ。浮かれてばかりはいられない。(Y)