「ああ堂々の退場」という見出しが躍った日本の国際連盟脱退。1933年2月、日本が世界を相手に戦争に踏み出す分岐点となった場面の映像をこれまで何度も観たが、代表松岡洋右の表情は「尊大傲慢」としか目に映らなかった。▼ところが事実は全く逆。「しまった、大変なことになった」と心の奥でつぶやいていたとは、NHKスペシャル「日本人はなぜ戦争へと向かったのか」で、浅学にも初めて知らされた。▼その2年前、関東軍が独断で仕組んだ満州事変の収拾に当たり、連盟が比較的温和に決着したがっていたにもかかわらず、現地軍がさらに暴走するのを中央が抑えられず、外務省が場当たり的に「脱退すれば経済制裁を免れる」と奇策を指示したのが、真相だったというのだ。▼最悪の形の敗戦に至るまで、万事この調子だった。泥沼に陥った中国戦線、制御不能になった陸軍組織、さらには陸海両軍の不統一。国家予算の大半を軍事費に注ぎ込んでなお、確たる戦略も立てられず解決策を先送りした政府。2大政党は党利党略に走った末に潰え、腹をくくれる人材も全く欠いたまま、ただズルズルと流されていった。▼現代日本が直面する問題への対処の仕方においても、何と類似点の多いことか。歴史を決して過去の彼方に埋没させてはならない。(E)