早朝5時。辺りはまだ夜の闇に包まれ、空には星が輝いている。 丹波篠山の秋の風物詩「雲海」を撮影するため、車を峠へと走らせた。 現場に着くなり、懐中電灯の明かりだけを頼りに、カメラをすばやくセットする。ここまで済ませたら、後は雲海が朝日に照らされ、最も美しい姿を見せてくれる時(6時20分ごろ)を待つだけだ。持参した温かいコーヒーで一服。時折向かいの山腹から、発情したオスジカの物悲しい鳴き声がこだまする。 5時51分―。東の夜空がうっすらと白み始め、同時に霧が立ちこめてきた。篠山盆地がたっぷりと霧をため込み、見事な雲海が出来上がった。夢中でシャッターを切る。朝日が昇り、気温が上がるにつれ、暖められた空気が気流を起こし、雲海が激しく動き始めた。刻々と形を変える雲海―。霧が山の尾根から谷へと流れ落ちる「滝雲」という現象も見られる。 いつしか雲海も薄くなり、雲間に下界の集落が顔をのぞかせる。我に返り、帰り支度。今日もまた、慌ただしい一日が始まる。 (太治庄三)