カメラを手に田園の真ん中でじっと立つ。道行く人には、かなり怪しい印象を与えたことだろう。私は取材対象の登場を待っていた。その名もワライガラス―。 丹波市柏原町の新井小学校区の方から、笑い声を上げるカラスがいるとの情報が入り、取材活動に入った。 グラウンドゴルフを楽しむ高齢者の方などに、どんな鳴き声なのか聞き込みをしたところ、みなさん上手に物まねをしてくださった。「ハハハハ」「フシュルル」「フャハハハ」。困った。人によって表現がばらばらである。 活字でしか情報を届けられない新聞において、音の表現は重要。自らの耳で確かめるしかない、と数時間立ち尽くしてみたが、カラスは「取材拒否」とばかりに、いつまでたっても姿を見せなかった。 結局、目撃証言から最も無難と思えた「ハハハ」を採用したが、「不完全燃焼」という気持ちはぬぐえていない。 自分の目で、耳で、肌で確かめることの重要性。それは、どんな取材でも大切なこと。現れなかったワライガラスは、私にそんな戒めを再認識させてくれたような気がした。(森田靖久)