春の足音

2010.02.25
未―コラム記者ノート

 「コッコッコッ…」。小気味良い鳴き声が山中の沼地に響き渡る。声の主はヒキガエル。土色をした体長10?以上もある大きなカエルで、繁殖のため、水辺に集まってきたのだ。早くも春への胎動が始まっている―。 この沼で毎年繁殖しているヒキガエルを取材しようと、夕暮れ時に訪れた際での出来事。ざっと見渡してもその数、10数匹。メス1匹に対し、オスが3―5倍もいるものだから、おのずとメスを奪いあうオス同士の激しい戦い「カエル合戦」が展開される。すでにペアになった者たちは、浅瀬にひも状の卵塊を産みつけていた。この模様を撮影しようとしたが、日没後の暗さと合戦で巻き上げられた水底の泥の濁りとで、ピントを合わすことすらできない。「懐中電灯を持ってくればよかった」と己の準備不足を恨んだ。 潔く撮影をあきらめ観察していると、「コッコッ…」の鳴き声と共に、「ガサッ」「ペチャ」と水辺に近づいてくるカエルの足音があちらこちらから聞こえてくる。とっぷりと日が暮れた山の中で、早春を告げるこの神秘的な足音にしばらく耳を澄ました。(太治庄三)

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