「自転車は車道じゃないとダメですか」。交通安全教室の取材中、女性からこんな質問を受けた。免許を返納した80代の彼女にとって、自転車は大切な移動手段。運転には細心の注意を払っていると切々と話した。彼女が心配するのは「罰則強化」。取材をしたのは、歩車分離の原則を厳しくすると警察が発表したニュースがあった翌日だった。
車が中心の世の中、自転車が車道に出るのには勇気がいる。大型車の通る道の端は波打ち、ゴミが散在している。私も自転車で数キロを走る間に、コメ粒にも満たない大きさのガラス片で2回もパンクした経験がある。交通ルールに従うことで、身を危険にさらされはしないか。心配なのは彼女だけではないだろう。
彼女には「歩道によっては、自転車が走ってもいい場合があるから、標識を確認して気をつけてください」と話した。車の往来の激しい道路の歩道の多くは、道幅が広げられ、自転車通行可能の標識が立っている。私の知るかぎり、罰則強化の後、標識の存在を喚起したという話は聞かないが、ルールを守ろうとする人が割を食うのだけは、避けなければならない。(河本達也)