見当たらない“先達”

2011.12.01
未―コラム記者ノート

 「この店に来る若い人は、あなたたちだけになってしまいました」。京都での大学生活で、友人と年に数回の楽しみとして通ったバー「カシミール」。久しぶりに訪れた自分たちに、そうマスターは悲しそうに言った。
 佛教大学に近い閑静な所にある“隠れ家”的なバーだが、ほかより半値近い値段で飲める、そんな願ったり叶ったりのお店だった。
 「行ってみないか?後悔はさせないから」と先輩に誘われて来店。以来、深夜に訪れては最後まで飲み明かした。なかなか若い人が来ない、とその時からマスターは話していたが、そこまでとは思わなかったものだ。
 無理もない話だ、と思う。大学にはバーのような“大人の趣味”を学ぶ機会がないからだ。大人の酒を知らないから、週末には一気飲みや安酒で体を壊した学生が大学横の居酒屋で転がっている。自分自身、先輩がいなければ「カシミール」を知らなかったろう。
 自分たちの世代には、誘ってくれた先輩のような「先達」の存在が見当たらなくなったのだろう。マスターの言葉に考えさせられた。(河本達也)
 

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