アトリのねぐらで

2012.02.18
未―コラム記者ノート

 冬鳥のアトリの大群が丹波地域の各地で目撃されている、という記事を先日報じた。取材をしようと、知り合いの野鳥研究者から教えてもらったねぐらのそばで、奴らの帰宅を待ち伏せた。
 午後4時45分。「ザザーッ」と突如、頭上で聞こえるにぎやかな羽音。慌ててその方向に目をやると、無数のアトリが塊となって飛び抜けた。その塊はうねうねと帯状となり、常に形を変えながら山の尾根付近を飛行。その姿はまるで竜のよう。と、次の瞬間、その塊の形が大きく歪んだ。
 「何事!?」と辺りを見渡すと「ハヤブサだ!」。アトリを狩ろうと群れの中に突進するその勇姿に心が躍る。パニック状態のアトリ。地上すれすれを飛ぶなど、猛禽の執拗な攻撃から逃れようと必死だ。しまいには私を包み込むようにして群れが飛び交い始めた。耳元をかすめる「ババババーッ」という大きな羽音。自然好きで長い間、野鳥とも接してきたが、こんな出来事は初めて。そのあまりの迫力とうれしさで体がガタガタと震えた。
 長い興奮がようやく冷めた頃、日はとっぷりと暮れ、空には星が輝いていた。幸せなひとときだった。(太治庄三)
 

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