2度目の春

2013.03.02
未―コラム記者ノート

 フロントガラスを突き抜けてくる日差しが少しだけポカポカしてきた。こんな日はついアクセルを踏む足が緩む。
 この間までは耳たぶが痛いほどの寒さだったのに、季節は確実に変わり始めている。考え事をしながら、のろのろ運転をしていると後ろからクラクションを鳴らされた。
 春、夏、秋、冬―。少しずつ変わるくせに、振り返ってみればかなりあわただしい。言い方を変えれば、忙しい。そして忙しいときほど、人はいろんなことを忘れる。まったくうまくできていると思う。
 そして、また3月がやってきた。つい2回前の同じ月。一瞬で多くの命が消えた。そして、忙しく季節が過ぎる間に人はそれを時々、忘れるようになった。だから、「忘れないで」と言い続けてきた。
 しかし、振り返って思う。間違っていたと。「忘れないで」は、過ぎ去ったことに使う言葉だ。東北の苦しみは今も続く。現在進行形の事象に使うべき言葉ではなかった。
 きっと正しくは、「目を背けないで」。まぶたの裏に東北の人が、今も支援を続ける丹波の人の顔がよぎった。少しだけアクセルを踏む足に力がこもった。(森田靖久)

関連記事