こどもの頃、夜1人では怖くて照明のついていない自宅の2階にすら上がれなかったのに、今や明かり1つない山奥にカメラと三脚を担いで撮影に通える大人になった。
とはいえ、暗闇を怖れる気持ちには変わりがない。ヒューンと甲高い鹿の鳴き声に、肝が冷える。自分が踏んだ枯れ枝が草を揺らすと「クマが出た!!」と身の毛がよだつ。首筋に落ちる雨水に心臓が止まりそうになる。それでもこの時期にしか見られないので出かけて行く。
ゆっくり明滅するゲンジボタルの光跡は糸を引くように、カメラのストロボをたき続けているようなヒメボタルの光跡は、点線状に写る。周囲の景色がぼんやり写るぐらいの「明るさ」が撮影には好都合。一番いい時間は20分くらいしかない。
一方、観賞は暗ければ暗いほどいい。漆黒の闇の中、あちこちで明滅する様は、冴えた冬の夜空にまたたく星にも増して美しく幻想的だ。見とれていると迫ってくるヤマビルさえいなければ最高だ。
今年のシーズンも終わる。また来年も、素晴らしい光景を楽しめますように。(足立智和)