水木しげるさんの作品「河童の三平」にはまっている。貸し本版や発表した雑誌によって内容が異なることもあるが、主軸は次のようなものだ。
河童によく似た河原三平少年が、自分と瓜二つの河童や命を狙う死神、父が探してきた小人、山に住むタヌキらとドタバタ劇を繰り広げる。
三平は、祖父の命を狙いに来た死神を眠り薬で眠らせるし、河童からはオナラで進む水泳法を教わり、国体にまで出る。殴り合うほど険悪な仲だったタヌキとは、いつしか親友になっていく。水木さんならではのユーモアとかわいらしさが詰まった傑作だが、読了後、胸をえぐったのは「この世の不条理さ」だった。
お人よしの三平は、家族を亡くし、騒動に巻き込まれ、挙句、自分にも不幸が訪れる。ラスト、「シャンペイ」と呼ぶタヌキが、三平を追いかける場面は、心に深く、深く、突き刺さる。
貧しく、何事もなしえなかった三平。けれど、彼は人間として大切なことや、仕方がない弱さを教えてくれた。
ぜひご一読を。気取った小説よりも百倍お薦めです。(森田靖久)