栄光つかむ思考とは? 元ホークスの工藤公康さんが講演 他人見ず「自分信じる」

2023.10.22
地域注目

選手、監督として数々の栄光をつかむに至った思考と行動について講演した工藤さん=兵庫県丹波市柏原町柏原で

プロ野球選手として29年間活躍し、引退後は監督として福岡ソフトバンクホークスを3度のリーグ優勝、5度の日本一に導いた工藤公康さんの講演会(中兵庫信用金庫主催)が、兵庫県丹波市の丹波の森公苑であった。約500人の来場者を前に、若手時代に身に付けた他人と比べない精神や、監督時代に重視した選手との対話など、野球人生で華々しい栄光をつかんだ思考と行動を説いた。

◆諦めていた若手時代 「1A」留学が転機に

プロ入り後の2年間は、選手の足や球の速さ、パワーの違いに圧倒された。自分と比較し、周りの選手のすごい部分ばかりが見えてしまい、「トレードに出され、終わっていくのでは」と半ば諦めていたという。

3年目の夏、アメリカのマイナーリーグ・1A(シングルエー)に留学したのが転機に。年間契約の日本と違い、1Aは1週間、10日程度の短期契約で、結果が出なければ即”クビ”。クビになった直後の選手に話を聞くと、「自分には能力がある。たまたま結果が出なかっただけ」と、真剣に話したことに驚いた。

そこで「自分を信じることの大切さを学んだ」と言い、「卑下せず、自分にできる精いっぱいのことをしよう。他人がどれだけやろうが関係ない。誰よりも練習をしよう」と意識が切り替わった。キャッチボールなど「当たり前の練習を当たり前に続け」、他の選手が寝静まった時間にウェイトトレーニングやシャドウピッチングなどの練習を繰り返して自信がつき、4年目からは先発として活躍できるようになった。

◆監督として対話重視 「はい」以外を引き出す

監督就任当初は、「自分が選手の進むべき道を示してあげないといけない」という義務感があり、指導時は一人一人のことを知らないままに「こうした方が良い」と意見を押し付けてしまっていた。

しかし、「選手からの不信感につながるのでは」と危惧するようになり、接し方を変えた。「まずは選手を知ろう」と、普段、選手と練習を共にしているバッティングピッチャーら裏方と常に話すようにしたことで、選手の細かな状態を知れるようになった。

選手と対話する時間も多く取るようになった。「どう思う?」「どうしたら良いと思う?」と、選手から「はい」以外の返答を引き出せるような聞き方を意識した。対話から得られた方針に対する意見を尊重し、時には全て受け入れたこともあった。

「わがままを聞くわけではない。彼らの考えを聞き、互いが話して納得し、一番良い選択肢を取ろうというふうに変わった。一方通行ではコミュニケーションにはならない」と話した。

◆今なお挑戦続ける日々 「侍ジャパン」監督就任は?

現在は筑波大学大学院で、野球選手のけが予防について研究中。農業やDIYにもチャレンジしている。「知識や経験を積むことで見える世界がある。学びは世界を広げる。現状維持は後退。人生100年時代と言われる。何か楽しいことを一つでも見つけ、60、70代でも“現役”でいてほしい」と、来場者にエールを送った。

講演後には来場者から質問を受ける時間があった。「今後、侍ジャパンの監督になる可能性はある?」と質問が飛び、「チャンスがあれば。日本の野球の素晴らしさをもっと伝えていかなければいけない」と、含みを持たせた。

中兵庫信用金庫が主催する講演会は新型コロナウイルスの影響で4年ぶり。隔年ごとに、兵庫県の丹波、三田で、各界の著名人を招いている。

◆くどう・きみやす◆ 愛知県名古屋市出身。名古屋電気高校(現・愛工大名電高)卒業後、ドラフト6位で西武に入団した。ダイエー(現・ソフトバンク)、巨人、横浜を渡り歩き、主に先発として活躍。48歳で現役を引退した。通算成績は、635試合登板で224勝142敗3セーブ、防御率3・45。2度のMVPに輝き、4度の最優秀防御率など数々のタイトルも獲得した。2015年から21年まではソフトバンクの監督を務め、3度のリーグ優勝、5度の日本一に導いた。

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