ちいさな子どもが自分と同じくらいの背丈の黒豆の株を抱えて歩く。「おうちでゆでてたべるのー」。そうか、そうか。たんとお食べ。またおいでね。自然と笑みが浮かぶ。 丹波篠山の秋の味覚が勢ぞろいする「味まつり」が市内各地で行われた。初めての取材だったが、多くの人がまちにあふれる光景に驚かされた。 一番度肝を抜かれたのが高速道路。期日中、所用で神戸に向かったが、丹南篠山口から三田西インター付近まで、微動だにしない列が延々と続いていた。 「わっはっは、みなさんわがまちへ行かれるのですか。楽しんでくださいね」。渋滞は大嫌いだが、多くの人がやって来たということがなぜかうれしい。イライラした表情を浮かべたドライバーを横目に一人ほくそ笑んだ。 地方で暮らす人の中には、都市部にコンプレックスを持つ人もいるだろう。でも、秋のひと時、確かに全国各地から人が訪れ、こぞって味覚を買い求めた。「どうだ。ここが私たちのまちですよ」と胸を張って言える瞬間だった。 神戸からの帰路、混雑する反対側の車線を見ながら、そんなことを思った。(森田靖久)