x 花柄の布団が風を受け、登校中の黄色い帽子が列をなす。朝日で真っ白になった太平洋には、静かに波が打ち寄せる。平和な光景だった。
東京から常磐道に乗り、北東へ3時間。福島県いわき市は、何の変哲もない海辺のまちだ。福島第一原発から南に約40キロということ以外は。
事故直後からさまざまな影響を受けた。放射線の増加、人口の減少。避難者の増加、観光客の減少―。「翻弄」という言葉しか当てはまらない。
子どもは「人体実験」とも揶揄される線量計を首からさげ、大人は毎日の報道に過敏になる。余震も断続的に続く。
それでも、普通の生活が送られている。見かけの景色と住民の生活のギャップに、重い違和感を感じた。
取材は話すこと。それは人と縁を結ぶこと。いわきでもたくさんの縁が生まれた。
話してくれる。笑顔をくれる。「放射能はついてないから」。そう言って真っ赤なリンゴをくれた。そんな人たちが、同じ日本で今も苦しんでいる。
この縁のために、私ができることは何か。遠い丹波から、ずっと考えている。答えはまだ見つからない。(森田靖久)