福島原発から北西へ約60キロに位置する福島県伊達市。美しい雪景色の平野で手にした小さな画面に表示された数字に、驚きが隠せなかった。
10回目となった被災地取材で、人生で初めて、そして、本来ならば人生で一度も触ることがなかったかもしれない「放射線測定器」を使った。
通常その画面に表示される数字は「0・03―0・05」。自然界にある放射線の数値だ。しかし、手の中にある数字は「0・98」。この数値がいかに不自然な状況であるかは一瞬でわかる。
自分を取り巻く空間に、確実に異常な放射線が飛んでいる。原発事故以降、放射線に関するさまざまな報道があり、福島の放射線量が異常なことはわかっていた。それは頭でわかっていただけで、実際に目の前で数字を示されると、衝撃が体を突き抜けた。
そんな場所で生活している人がいる。神経が磨り減らないわけがない。
いたってのどかなまちだ。みんな普通に生活している。でも、地元にできた友人は言った。「みんな心では泣いているんだよ」。いまさらながら、その苦悩の一端を知ったことが情けなかった。(森田靖久)