お盆―。仏壇には季節の野菜や果物、菓子などの供物と共に、ナスやキュウリで作った牛や馬が飾られ、いつもとは違ってにぎやか。夜には「チン…、チン…」と、どこからともなく聞こえてくる詠歌の鉦(かね)の音。あちらこちらの軒先に「迎え火」が灯り、里はこの時期特有の雰囲気に包まれる。「お盆にはご先祖様の霊が帰ってくる」と、いつもは全く意識することのない「あの世」の存在を感じられるこの季節が私は好きだ。
我が家も夜には、家族そろって詠歌をあげる。今年は小学1年生の娘も仏壇の前にちょこんと座って参加。すべてうたい上げるのに30分以上はかかるが、もぞもぞしながらも最後までその場に座り続け、詠歌をあげてくれた。詠歌特有の微妙な節回しや、「御詠歌帳」に書かれた平仮名表記の歌詞を懸命に目で追うもついていけず、「あー」「うー」といった雰囲気だけの詠歌であったが、家族の笑い声が仏間に響くにぎやかなひとときとなった。
笑いながら、仏壇の脇に飾られている私の祖父母の遺影にふと目をやる。心なしか、その表情がやさしく見えた。そんな気がした。(太治庄三)