篠山市藤坂の春日神社に伝わる豊作祈願の神事「御田植祭」を取材した。この時期、全国各地で同様の神事が行われることを知ってはいたが、実際この目で見るのは初めてだった。
この神社が受け継いでいる御田植祭は、テレビのニュースで取り上げられることの多い、花笠姿の早乙女達が、実際の田んぼに稲の早苗を植えるものとは違い、神社の舞堂を模擬田とし、宜(ねぎ)と呼ばれる氏子当番が数人で、田起こしから田植えまでの工程を所作で表すもの。木彫りの牛の面を付けた牛役を先頭に、鋤(すき)や鍬(くわ)を手にした農民役が後に続き、「奥の田んぼ 口の田んぼ…」の囃子に合わせて、ぐるぐると堂内を回る。素朴な所作であったが、その非日常的な空間からは厳かな気配が強く伝わってきた。
全世界とインターネットでつながり、携帯電話を駆使する文明社会の片隅で、伝統が脈々と受け継がれていることの不思議。村の人々が神事に懸命に取り組んでいる姿を目の当たりにし、「自然とともに生きていこう」という強い意志が、今も伝承されていることを感じた。(太治庄三)