ゴールデンウイークに父から電話。居留守を使うと留守電にメッセージ。「帰ってきて手伝え。一人ではしんどい」。しんどいという言葉を残して過労死でもされては寝覚めが悪いと重い腰を上げた。
実家のある地域はご多分にもれず高齢化が著しく、“若手”と言える父(64)が近隣の田植えを任されていた。それを手伝えと言う。
今年になって購入した新車の田植え機に乗った父が一言。「やってみい」。恐る恐るシートに座る。田植え機を使うのは初めてだ。
レバーを引いて出発。先に土につけておいたマークを見ながら進むのだが、これが意外と難しい。一列を終えて父が「はい、振り返って反省」。むう、確かに途中にいくつか曲がっている個所がある。
隣りの田を見ると、苗がきれいに一直線に並ぶ。なぜか悔しさがこみ上げた。きっと農家の長男の意地だと思った。
しかし、これを昔は人の手でやっていたのだから恐れ入る。力仕事をしてかいた汗が水田にぽとり。私たちが何気なく食べているご飯には本当に農家の汗がしみこんでいると思った初夏だった。(森田靖久)