田植えの季節である。農家の両親を手伝うことはほとんどなかったが、三十路に入って、なんとなく申し訳なくなり、今年初めて自主的に田植えの手伝いを申し出た。
ほとんどの時間は慣れない草刈りを頼まれた。ひたすら腕を振るう中で、「刈る」より「剃る」に近いと気づく。土と草の根元すれすれに歯を入れて滑らしていく様は、髭剃りのように思えたのだ。刈ったはずのところに一本草が出ているのを見つけた時などは、剃り残しの髭のように思えていらいらする。
見かねた母がやってきて、「貸せ」。丁寧に、でも、スピードもある母の草刈りは職人だった。終盤には田植え機も扱ったが、まだまだ父の監督がなければできない始末。嫉妬すると同時に心の中で2人を師匠と呼ぶことにした。
畔に寝そべり、アイスキャンデーを食べながら思った。 「ちょっと大人かも」。
お酒が飲めても、たばこがのめても大人になった実感はあまりなかった。農家では農作業を任せられてこその成人かもしれないと実感した。
植えた苗の列が曲がっている。成人しても一人前は遠い。(森田靖久)