“家康お抱え”の流れ組む「彫り物師」 中井権次一統の装飾彫刻を紹介 「高度な芸術性誇る」

2020.01.22
ニュース中井一統丹波市地域歴史特集

 兵庫県丹波市内などの神社仏閣にすぐれた装飾彫刻を残した彫り物師、中井権次一統の作品を紹介した本「中井権次一統を中心とした装飾彫刻探訪記」が、中井権次顕彰会から発行された。著者は、中井権次について調べた成果を3年前までの3年間、丹波新聞紙上に連載した同市の岸名経夫さん(82)。連載した原稿に加筆修正し、丹波地方をはじめ、同県内や京都府に残る169カ所の作品を取り上げている。岸名さんは「中井一統の作品は高度な芸術性を誇り、文化財と言うべきもの」と話している。

中井権次一統は、4代目の中井言次君音(1722―1787)が装飾彫刻を始め、現在は11代目。岸名さんによると、徳川家康の召し抱え宮大工の中井正清の流れを受け継ぐと言われる2人の兄弟が1615年、京都の丹後与謝郡から、兵庫県丹波市の柏原八幡宮の三重塔の再建に招請された。兄弟の一人、中井道源を初代にした1722年出生の4代目の中井言次君音が神社仏閣の装飾彫刻を始め、1958年に没した9代目の中井権次橘貞胤まで彫り物師として活躍した。

中井一統の彫刻の主体は龍で、ほかに唐獅子、獏、猿、象、鶴、花、中国の神仙説話を基にしたものなど多岐にわたる。

岸名さんは、30年ほど前に訪ねた京都府舞鶴市の寺で「丹波栢原城下住人 中井権次正貞」との銘が入った装飾彫刻に出会い、初めて中井権次の名を知ったという。その20年後、同県立柏原高校教諭時代の同僚と訪ねた同県美方郡香美町の大乗寺で、中井一統の作品に再会。すばらしさに圧倒され、3人で中井一統の作品を求めて神社仏閣を訪ね回った。1日に13カ所を回ったこともあるといい、車の走行距離は1万5000キロを超えた。

2014年から丹波新聞紙上で連載を開始。連載中から「一冊の本にまとめたら」との声が寄せられ、中井権次顕彰会から発行することになった。基本的に1ページにつき1社寺を取り上げ、解説している。口絵には、各社寺の作品をカラー写真で紹介している。

岸名さんは、「中井一統は、彫り物の報酬の多寡にかかわらず、一つひとつの作品に心血を注いでおり、完成度が高い」と絶賛。「本の発行にあたって協賛金を寄せていただいたみなさんをはじめ、関係者に感謝したい」と話している。

1部3000円(税込み)。B5判、210ページ。1月19日から柏原八幡宮下の柏原観光案内所で販売している。

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