「柵で囲う+捕獲=獣害減少」 集落の餌場価値下げる対策を 社会学者の視点で見る被害軽減法

2020.01.21
ニュース丹波市地域地域

集落の餌場価値を下げる「シカ、イノシシの対策の5箇条」

野生動物の学習会「地域で取り組める獣害対策の成果や可能性」がこのほど、兵庫県丹波市の「青垣いきものふれあいの里」であった。約70人が、県森林動物研究センター主任研究員の山端直人さんから、柵の点検・補修と「柵で囲う+捕獲」で獣害を減らした集落の事例を学んだ。要旨は次のとおり。

被害額350万円が30万円に

私は野生動物の専門家でなく、社会科学者。獣害を防ぎ、減らすのが仕事で、それを地域と一緒にやっている。「買えばええやん」とまちの人は言うが、自分で作ったものを自分で食べたい、あげたいのが農業。その価値は代えがたい。被害金額以上に、農村の人たちは獣害で困っている。

動物は、餌と危険を天秤にかけている。里の危険が少なく、食べ物があるから獣害が起こる。「集落は危ない、餌が少ない」にしていかないといけない。

「集落が安全で餌がある」原因は5つ。1つは餌。例えば「ひこばえ」(樹木の切り株や根元から生えてくる若芽など)など、人が被害と思っていない餌がある。「ひこばえが自分のものだ」と思っている人はいないが、結構な量がある。無意識に餌付けしているようなもので、人間が原因を作っている。

2つ目は、柵で正しく囲えていない。金網を張ってもメンテナンスが行き届かないと、下から潜り込まれる。3つ目は、隠れる場所がある。1メートルくらいの茂みがあると、動物がいても分からない。4つ目は、サルの場合、正しく追い払えていない。5つ目は、効果的な捕獲ができていない。害を及ぼしている「犯人」を捕らないといけない。里に近い所では、箱わな、くくりわなで捕獲しなければいけない。

集落の餌場価値を下げる「シカ、イノシシの対策の5箇条」(表参照)のうち、(1)―(4)は住民ができる対策。(5)は行政の仕事。

動物に「安全だ」と経験させてはいけない。電気柵は、正しい高さに通電し、感電させ、「ここに近づくと怖い」と覚えさせることが大切。冬に作物がないからと、電気柵の電気を落とすのは駄目。一度行き来すると、次から電気を通しても死ぬ訳ではないので効果がない。イノシシは、地面から20センチの高さに電気線を設置すると侵入できなくなる。ちょっとした工夫で守れる。電気柵を点検する時は、1本の棒に、シカとイノシシが触れる高さの20センチ、40センチ、60センチ、90センチの目印をつけて持ち歩けば、線が適切な高さか確認しやすい。

被害が減った事例を説明する山端さん=2020年1月11日午後1時48分、兵庫県丹波市青垣町山垣で

集落ぐるみの取り組みで、兵庫県相生市の小河地区では獣害を大きく減らした。毎月2回、獣害柵パトロールをし、補修する。農家でない人も含め、交通当番のような形で全員でやっている。柵で守っていてもどこからか入ってきてすっきりしないので、わなで加害個体を捕獲しようと、集落の代表者に狩猟免許を取ってもらった。そして、免許を取得した人任せにせず、わなに餌付けするための餌やり、わなを移動させる時のサポートなどをする。「柵で囲い、捕獲する」効果がてきめんで、被害額350万円が30万円に減った。

丹波市は、柵は非常に多く設置されている。もうあと一歩。「柵のメンテと捕獲」という正しい対策をすれば防げる。集落で獣害対策に取り組みたいところは連絡を。捕獲技術や運営体制づくりなどの支援ができる。人口減少社会、高齢者社会でも地域の課題を解決できるモデルとして、獣害対策は最適と考える。

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